作品情報
キャスト
ヘルタースケルターのあらすじ紹介
【起】ヘルタースケルター
トップモデルとして芸能界の頂点に君臨するりりこは、その完璧な美貌で世の女性たちの羨望を一身に集めていました。
しかしその正体は、目や耳、爪などを除く全身に、複数回にわたる大掛かりな美容整形手術を施して作り上げられた「人工美人」です。
彼女の美は、所属事務所が経営する違法な美容クリニックでの、過酷で危険なメンテナンスによってかろうじて維持されていました。
華やかな世界の裏側で、りりこは絶えず押し寄せる崩壊の恐怖に苛まれ、そのストレスをマネージャーの羽田ミチコにぶつけることで精神の均衡を保っていました。
そんなある日、彼女の顔に整形の副作用を告げる黒い痣が浮かび上がり、完璧だったはずの彼女の世界に、破滅への序曲が静かに流れ始めるのでした。
【承】ヘルタースケルター
りりこの身体を蝕む整形の副作用は日増しに深刻化し、顔や身体の至る所に黒い痣が広がり始めます。
事務所社長の多田は、りりこという商品の価値を維持するため、さらに危険な再生医療で応急処置を施しますが、それは根本的な解決にはなりませんでした。
時を同じくして、事務所は天然の美貌を持つ新人モデル・吉川こずえをデビューさせ、彼女は瞬く間に世間の注目を集めます。
自らの地位を脅かす若く美しいライバルの登場に、りりこの嫉妬と焦燥は頂点に達し、精神のバランスは急速に崩れていきました。
その裏では、美容クリニックの違法な医療行為を追う検事・麻田の捜査の手が着実に迫っていました。
孤独と恐怖から逃れるようにドラッグに溺れ、奇行を繰り返すりりこの破滅は、もはや誰にも止められないものとなっていくのです。
【転】ヘルタースケルター
自らの崩壊が避けられないことを悟ったりりこは、狂気の行動へと突き進みます。
彼女は自分にとって唯一の理解者であったはずのマネージャー羽田に対し、ライバルであるこずえの顔を硫酸で襲撃するよう命令します。
長年りりこに虐げられながらも、歪んだ形で彼女を崇拝していた羽田は、その非情な命令を実行に移してしまいました。
この衝撃的な事件をきっかけに警察の捜査は本格化し、同時に検事・麻田の執拗な追及によって、りりこが通う美容クリニックの非人道的な実態が次々と白日の下に晒されます。
そしてついに、りりこの全身整形という最大の秘密がマスコミにリークされ、世間は大スキャンダルに揺れます。
すべてを失った彼女は、自らの口で真実を語るため、無数のフラッシュが待ち受ける記者会見へと向かうのでした。
【結】ヘルタースケルター
マスコミが詰めかけた記者会見の壇上に現れたりりこは、堂々とした態度で「あたしは、もっともっと欲しい」と欲望を剥き出しにした後、隠し持っていたナイフで自らの右目を突き刺すという、日本中を震撼させる行動に出ます。
この事件以降、りりこは完全に消息を絶ち、その後の行方は誰も知りませんでした。
一連の事件の首謀者である事務所社長の多田は逮捕され、羽田は自らも整形手術を受けてりりこに酷似した顔を手に入れます。
物語は、海外のアンダーグラウンドなクラブのステージへと移ります。
そこには、眼帯をつけながらも、かつてと変わらぬ妖艶さでパフォーマンスを披露するりりこの姿がありました。
彼女は生き延び、新たな場所で美を追求し続けていたのです。
その姿を客席からじっと見つめる羽田の姿を最後に、美への執着という終わりのない地獄を暗示して物語は幕を閉じます。
ヘルタースケルターの感想
本作は「美とは何か」という根源的な問いを、極彩色の悪夢として観客に突きつける強烈な作品です。
全身整形で美貌を手に入れた主人公りりこが、その美貌故に崩壊していく様は、美しさを渇望し消費する現代社会の歪みを痛烈に描き出しています。
蜷川実花監督による、赤を基調とした鮮烈で絢爛な映像美は、りりこの血のような情熱と狂気を完璧に視覚化しており、その美術セットや衣装の一つ一つが見どころです。
何よりも特筆すべきは、主演・沢尻エリカの鬼気迫る演技でしょう。
トップスターの輝きと、薬物や嫉妬に蝕まれ狂っていく様を見事に体現し、観る者を恐怖と憐憫の渦に引きずり込みます。
「あたしをめちゃくちゃにできるのは、あたしだけ」という彼女の叫びは、承認欲求の果てにある孤独と虚無を象徴しているようで、深く胸に突き刺さりました。
鑑賞後は、その圧倒的なエネルギーに打ちのめされながらも、人間の業の深さに戦慄するような、複雑な感情に包まれました。
ヘルタースケルターのおすすめ理由
主演・沢尻エリカが見せた、女優生命を賭けたかのような鬼気迫る熱演が、本作の評価を決定づけています。
美の頂点から奈落の底へと墜ちていく主人公の狂気を、全身全霊で体現した姿は圧巻の一言です。
また、蜷川実花監督ならではの極彩色で絢爛豪華な映像美は、物語のグロテスクな側面と見事な化学反応を起こし、唯一無二の世界観を構築しています。
美への執着という普遍的かつ現代的なテーマを、ここまでショッキングで芸術的に描き切った手腕は高く評価できます。
ただし、性描写やグロテスクな表現が非常に多いため、鑑賞者を選ぶ作品であることは間違いなく、その点を考慮して4.2点としました。
ヘルタースケルターのその他情報
第36回日本アカデミー賞において、主演の沢尻エリカが優秀主演女優賞、助演の寺島しのぶが優秀助演女優賞を受賞するなど、俳優陣の演技が高く評価されました。
また、興行収入は21.5億円を記録する大ヒットとなり、社会現象とも言えるほどの話題を呼びました。
岡崎京子による伝説的な原作漫画の世界観を、蜷川実花監督がその作家性を存分に発揮して映像化した手腕は、原作ファンからも批評家からも賞賛されました。
特に、スキャンダルを経て本作でスクリーン復帰を果たした沢尻エリカの、すべてを曝け出すような体当たりの演技は、彼女の代表作として広く認知されています。


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